銀座で素っ裸になったことがあるだろうか。
ただ銭湯に行っただけで背徳感きわまりない気持ちに包まれる。1ミリも悪いことはしていないのに。
子どもの頃から何度も言葉に出しているにも関わらず、「銀座」の響きには上品で惹かれるものがある。
そんな街で、令和の時代でもこんなことができちゃうなんて。
江戸時代から続く〈金春湯〉の存在はいつも気になっていた。
銀座さんぽの定番ルートであるギンザ・グラフィック・ギャラリーに立ち寄り、ギリシャ神話のワンシーンのような石の彫刻が目を惹くアスタープラザビルの存在感に高揚感を覚える。
月光荘画材店をちらっと見て新橋方面へ進むと、右手には「金春湯」と青い看板が光る。
江戸文化研究家の故・杉浦日向子さんがこの辺りのことを、江戸時代の頃の雰囲気があると著書で書いていたけれど、その頃から20-30年は経っているだろうから、だいぶ変わってしまったかもしれない。
打ち合わせを終えて、高まった心を鎮めたくて、はじめての金春湯へ。ビルの1階の入口には濃紺の暖簾がかかる。
思ったより現代風の作りだな、と思ったのもつかの間、UHA味覚糖の「純露」に入った紅茶味のキャンディのような飴色の下駄箱が歴史を感じさせた。
女湯の扉を開ければ、小さいながらも吹き抜けの脱衣所では地元の常連さんが挨拶をしあう。
浴槽はふたつ。その手前に洗い場がある。そこまで広くはないけれど、実は見どころがたくさんだ。
なんと壁面タイルは九谷焼。正面には恰幅のいい鯉が池で泳ぐ様子を描いた作品で、朱赤、ライムイエロー、群青色で表現したうろこの色に目を奪われる。
うっとり観察していると、43度の湯にのぼせてしまいそうに。入って右の洗い場の壁面には幻想的な日本の四季が描かれている。桜に紫陽花、もみじに、すずめや鴨が空を舞う様子。
壁面タイルに絵を描いたタイプの銭湯は、今はあまり見かけないような気がするけれど、昔は定番だったのかもしれない。
なぜなら、多治見にあるモザイクタイルミュージアムには、閉業した銭湯の壁面タイルがいくつか飾られていて、風景や戦国武将のような絵が描かれたものがあったから。
銀座は背伸びして歩きたくなる街で、欲しいものも華やかな暮らしをしていそうな人もたくさんで、めまいを覚える日もある。
けれど、そんな日は煌々と光る青い看板をたよりに、暖簾をくぐってから帰路に着くのもいいかもしれない。
江戸時代から続く銀座の銭湯〈金春湯〉へ。 外観
東京へ観光や出張に来て、銀座に泊まる方もいらっしゃるかもしれません。そんな時に思い出して欲しいのが銭湯。
都会なイメージの銀座で営業を続ける〈金春湯〉に入れば、銀座のイメージもまた違う風に感じられるかも。
〈金春湯〉の入口は奥まっていて、この奥に下駄箱が。小さくても手前にベンチと自動販売機があるのがうれしい。
奥に見える「わ」という看板は、「わいています」の意味。つまり営業中です。
中の様子がわからないと入りづらい、という方も多いでしょう。店内で配られているパンフレットが壁に掲示されていますよ。
下足入れ。
〈金春湯〉はシャンプーとボディソープが備え付け。無料のリンスインシャンプーは、髪がガサガサになりやすいけれど、金春湯のは洗い上がりがさらっさらだったのも嬉しかったな。
銭湯といえば黄色のケロリン桶が定番ですが、ここのはなんと「モモテツ」でした…!
ジェットバスは年配の常連さんが多いためなのか、刺激もソフトなので、安心して入れます。基本的に熱めのお湯なので、ささっと洗ってささっと入ってサクッと出るのが向いている銭湯。
30分ちょっとあれば、銀座でリラックス&リフレッシュできちゃいますよ。おすすめ!
東京のおすすめ銭湯:銀座の銭湯〈金春湯〉へ。店舗情報
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