手先が器用な人に憧れる。
でも、わたしにはどうしたって克服できそうにない。
家庭科の授業でわざわざ巾着袋のリュックサックやかっぽう着、エプロンにパジャマを作らされたのは、今でもじんわり嫌な思い出として残っている。
買えば済むものを、わざわざきれいな布を裁断してパーツごとに縫い合わせ、時間をかけて仕立て上げる。興味が持てないことを強制される時間が苦痛で仕方がなかった。
かわいいと思って選んだ淡いピンク色をしたギンガムチェックの生地。
完成してみたら透け感の強いパジャマになっていて、たとえ家で着るとしても戸惑いを隠せないシロモノになった。
高校生のわたしを受け持ってくれた家庭科の先生は、何度教えても謎の間違いを繰り返し、さらには家庭科教室のミシンをフリーズさせてしまうわたしに「どうしてこうなっちゃうの?」と朗らかに笑ってくれたのが心の救いだった。
空間認識能力が乏しいのか、今でも組立図を見て立体的に作る作業が苦手だ。
それなのに、どういうわけか数年に一度、ハンドメイド欲が湧いてくる。
昔からこまごまとしたものが好きで、ボタン付けすら危ういくせにデッドストックのボタンや生地を探したり、わざわざ専門店へ行き、繊細なレースのリボンを買い集めている。
そんなふうに集めたものの多くは、引き出しの奥にひっそりと仕舞ったままだったり、わたしの正反対で作ることが大好きな妹にあげたりしている。
浅草橋はハンドメイドが好きな人にとっては聖地である。
アクセサリーパーツを販売する「貴和製作所」や「パーツクラブ」などの有名どころから、駅から少し離れたマンションの入口にビーズ専門店の看板があったりする。
既製品よりリーズナブルかつ、自分の好みに合わせて作れる楽しみは手先が器用な人の特権だ。
そんなわけで、不器用な者にとっては「自由に作ってみたいなぁ」と恋焦がれ、妄想を膨らませる場所が浅草橋。
パーツショップの自動ドアをくぐるだけでも勇気がいるけれど、ひょいっと入ってみた。
「パーツクラブ」で目に飛び込んできたのは、携帯ストラップ。
最近よく見かける、ポシェットのようにスマホをぶらさけることができるアレだ。
スマホ依存症のわたしとしては、避けていたアイテム。
できるだけスマホとの距離を離そうとしていつつも、いまはなんだかんだ支払いに使ったり、道案内にも欠かせず、常に片手に握りがちだ。
思い切って、導入してみるか。
モノトーンのコーディネートに映えるように、スポーティーでカラフルな配色のコードを選ぶ。
ベーシックカラーばかり身につけていたら、気づけば心が沈んでいたから、小さなところから色を取り込む。
どのパーツを買えばマイ携帯ストラップが作れるかを店員さんに教えてもらう。
携帯ストラップはハンドメイド初心者にもとても優しい設計になっていて、たった3つのアイテムを買えば完成する。
もともと使っていた透明なスマホケースは、iPhoneが持つ形状の美しさを損なわず、それでいて好きなステッカーを差し込むだけで雰囲気を変えられるもの。
手持ちのスマホケースが対応していれば、たったの572円で作れる。組立図を理解せずとも、YouTube動画が用意されているから15分で完成した。(たぶん普通の人なら5分で作れます)
ケースとコード、2種類の金具の組み合わせでバリエーションは広がる。
コードの派手さを影から支えるような、マットピンクの金具を選んだのがポイントだ。
作った翌日から、うきうきとスマホをぶら下げて散歩した。
パンツやスカートのポケットに入れるよりも安定感があるし、思ったより気にならない。
なにより、不器用な自分でもオリジナルの携帯ストラップを作れたことが嬉しくて、誰に聞かれることもないけれど、なんだか人に自慢したくなる。
ハンドメイドの敷居を下げてくれた人、本当にありがとう、と感謝したい。
たった数百円の買い物でも丁寧に教えてくれた、パーツクラブの店員さんにも。
次は、なにを作ろうかな。
東京の記憶