オーダーしたメニューが想像の域を越えていた、という体験は喫茶店ではめずらしいことだと思う。
ほとんど初めかもしれない大森に降りたのは、隣の大井町に用事があったから、そのついでだった。
いつか行こうと思っていた場所が、好きな俳優の出る映画のシーンで何度も登場したのを機に、わざわざ電車を乗り継いできたのだ。
趣きのある喫茶店はたびたび映像作品に使われ、その空間がもつ魅力が作品に深みをもたせる。そのことからも、喫茶店は今後もなくてはならない存在なのだと実感する。
駅から地図を頼りに進むと、飲み屋がつらなる通りにつながっていた。さすがに平日の昼間はまだ閑散としている。
「うちは美味しい店のメニューをパクっているので安くてうまいんです」というようなことを壁に大きく書いた居酒屋のビルが現れ、なんだかなと釈然としない気になりつつも、ここまで開き直って言われるとあっぱれとしか言いようがない。
通りの角にようやく目的地を見つけた。
ひっきりなしにお客さんが出入りする。外観を撮ろうとする人はどこかから来た喫茶店好きの人かロケ地巡りの人。何の気なしに店から出てくる手ぶらのおじさんは、きっと常連さん。
「1人です」というと、1階のカウンター奥に案内された。ちょうど、映画で使われていたテーブルが真向かいに見える席だ。
その映画のメインビジュアルにも使われていた出入口に近いテーブルも、カウンターと客席を隔てる壁が視界を遮るものの、端のほうだけ見える。なんだかそれも、こっそり見ている気持ちになれていい。
せっかくなら同じ席に座ってみたい気もしたけれど、それよりもその空間を少し離れたところから見学する方が、なんだか自分には合っているような気がした。
だって、店に入る前から心臓の鼓動が止まらない。ロケ地巡りなんて、いつ振りだろうか。どうしてこんなにドキドキしているんだろうか。こんなことで興奮していたら寿命が縮まる。
落ち着いてメニューを開くと、「カフェ・ドリーム」という文字が目に留まった。
ホットコーヒーとアイスが合わさったメニューはめずらしい。生クリームがのったウィンナーコーヒーのようなものだろうか。
注文した後になって、他のお客さんを見渡すと、スタッフの方がコーヒーとミルクを両手に持ち、テーブルに置かれたカップから徐々に高度を上げ、かなり高い位置から勢いよく注いでいる。
銀座「トリコロール」と同じスタイルだ……! エンタメ感の強い演出にワクワクし、どうしてあれを頼まなかったのだろうと少し後悔し始める。
すると目の前にドリームが現れた。
「写真を撮っていいですか?」と聞くと、タイミングを合わせて待ってくれた。写真を撮ったものの、こういうのは動画で撮るべきだったかもしれない、と気づくが後の祭りだ。
持ち手の細いワイングラスに浮かぶ、白くて丸いバニラアイス。そのグラスを目がけてスタッフの方がすすすーっとホットコーヒーを注ぐ。
あっという間に完成。洒落たビジュアルに小粋なサービス。甘めのカフェオレといったフレーバーに、香ばしい小粒のアーモンドがはらりとトッピングされていて、カクテルのような贅沢感が楽しめる。
想像の先をゆく「喫茶店の夢」を浴び、くらくらするほどルアンの魔法に酔いしれた。
純喫茶で東京をめぐる旅 大森「珈琲亭ルアン」店舗外観
純喫茶で東京をめぐる旅、久しぶりに少し遠出をして更新しました。元気じゃないと新しい店をまわるのもしんどいんだな、と最近気づいた気がします。
ずっと行きたかった大森「珈琲亭ルアン」。カントリー調の外観がかわいい。
入口の床はビスケットのような柄のシート。
純喫茶で東京をめぐる旅 大森「珈琲亭ルアン」店内
今泉力哉監督の映画『窓辺にて』で、稲垣吾郎さんが座っていたのが、出入口すぐそばの4人掛けテーブル。劇中でも3,4回くらい出てきたような。
壁に貼られたポップの文字もいいですよねぇ。
純喫茶で東京をめぐる旅 大森「珈琲亭ルアン」メニュー
「珈琲亭ルアン」は、アレンジの効いたコーヒーのメニューが豊富なので、コーヒーが苦手な人も挑戦しやすいかも。
「カフェ・ロワイヤル」の青い炎、気になるな。結婚式のキャンドルサービスみたいに火をつけるのかしら。
こちらが「カフェ・ドリーム」。
注がれるホットコーヒーの熱で次第に溶けていくバニラアイスをじっくりと眺めます。たのしい。
完成したのがこちら。
お酒の弱いわたしは、カクテルのように味わえるサービスがなんだか特別な日のようでうれしいです。
なによりこの空間の美しさにうっとり。これは映画でもドラマでも引っ張りだこになるわけだ。
2階もあったので、次はぜひ行ってみたいです。
純喫茶で東京をめぐる旅 大森「珈琲亭ルアン」店舗情報
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