あんみつと和解した。
といっても、向こうは物言わぬ甘味なので、わたしが一方的に距離を取っていただけだ。
母親が嬉々として買ってくるあんみつお持ち帰りセットを、「ケーキの方が美味しいのに」と思って眺めていた子ども時代。味のしない寒天のなにがいいんだろうと思っていた(ごめんなさい)
味覚が変わったのか、あんこ自体の甘さが時代の移り変わりで変わったのか、はたまた好みの店に出会わなかったからなのか。あんことは縁遠い人生だった。
それが、あんバターどらやきに始まり、豆大福などなど、ほんの少しずつ距離が近づき、見落としてた和菓子の素晴らしさに気づき始めている。
なんだか今日は無性にあんみつが食べてみたい。入ってみたかったあの店へ行こう。人形町の〈初音〉。
白玉を口に入れてあまりのモチモチっぷりに驚き、形はあれどかめばすぐに水のようにとろけてしまう寒天の得体の知れなさと後を追いたくなる素性の知れなさに恋が生まれ、バニラアイスとあんこに黒蜜が交わる革命的なイリュージョン。
完落ちしました、初音のあんみつに。
まるで牛丼を食べるサラリーマンのように、あんみつをかきこんでサッと出ていく地元のおじさんもまぶしく、早食いはお行儀が悪いとはいうけれど、時間がなくともよほど食べたかったんだなと思えて愛おしい。
あの日からあんみつのことばかり考えている。まだ食べられていない和菓子とも、少しずつ和解できる日が来るのかな。
人形町であんみつを。〈甘味処 初音 はつね〉店舗外観
人形町から水天宮へ行く通りはビルが低くて落ちつく。どちらの駅からも中間地点、いや、どちらかというと水天宮よりかな。
和モダンな佇まいに思わず立ち止まる人も少なくないはず。続けていくには時代に合わせた雰囲気づくりも大事な要素かもしれません。(昔ながらのままの店ももちろん大好き)
〈初音〉は天保8年(1837年)に創業した老舗の甘味処です。氷の暖簾もいいですね〜。入口にはテイクアウトの売店もあります。
食品サンプルの見せ方も洗練されています。
ラムネ色のタイルも涼しげ。
人形町であんみつを。〈甘味処 初音 はつね〉店内
初音の店内はやわらかな自然光と乳白色の照明が優しく照らします。障子のデザインが現代風で素敵。
人形町であんみつを。〈甘味処 初音 はつね〉メニュー
初音の一番人気は白玉クリームあんみつらしい。甘味処の良いところは温かい煎茶が出てくるところ。茶釜で沸かし、そのタイミングで淹れる人数分だけお湯を注いでサービスする心配り。お代わりのタイミングもきちんと遠くから見てくれています。
友人のすすめであんこにコーヒーを合わせるのが好きになったので、コーヒーも注文。
ということで、白玉クリームあんみつ(1,100円)登場!
ああ、これは美しい。小ぶりなガラスのうつわにぎゅっと詰め込まれた主役たち。バニラアイスにあんこ、ゆでたての白玉、さくらんぼに杏に求肥、塩気の効いた赤えんどう、黄桃の下にはましかくの寒天がたっぷり。
もっちもちの白玉にふわーっと口の中に消えゆく寒天。ふたつとも、存在感がない食べ物だと思っていた過去を懺悔。こんなに美味しいと思ってなかったよ…!優しい甘さのあんことバニラアイス、黒みつ(白みつも選べます)が混ざり合う瞬間のしあわせよ…!赤えんどう豆のほんのりとした塩気が後をひく。
あまりにおいしくて、その日以来ずっとあんみつチャンスを狙っています。2日連続で行こうとしたら、あいにく閉店のタイミングでした。
会計するときに見えた、テイクアウト用のシールが可愛くて思わず話しかけたら、お母さんがとても気さくに答えてくれて、ますます初音さんへの恋が加速しました。あー、書いててもまた行きたくなってきた。
人形町であんみつを。〈甘味処 初音 はつね〉店舗情報
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