「明日どこ行く?」と聞かれると、ひるんでしまう。
決めたくない、ぜんぶ明日の気分で決めたい。と言いつつも、翌日になると「今日どこ行こうか」と悩みのループに迷い込む。
行きたいところは山ほどある。
Googleマップには3500ヶ所以上の行きたい場所リストが眠ったままだ。絶対に死ぬまでにコンプリートできないだろう。
さんざん迷った後、とりあえず丸の内にあるラーメン屋へ行くことにした。1年ぶりに食べたとろとろの鶏ラーメンの余韻に浸りつつ、思い立った場所は神保町。
いつだったか、神保町から竹橋まで歩いたことがあって、思った以上に近いことに驚いた。
電車に頼っていると、いつまでも頭の中に自分なりの東京地図が作られない。電車を乗り継ぐより徒歩の方が近いのもよくあること。迷いながら地図を頼りに歩けば、思いがけない光景に出合える。
丸の内から神田方面に向かう途中、高速道路の真下をくぐると、空気がガラリと変わる。
背の高い木に、淡い薄桃色の花が咲いている。寒桜だろうか?名前はわからないけれど、寒々しい冬の街路樹の中で春を見つけたようでうれしい。
平日の昼間のオフィス街。
ビルと高速道路しか見当たらない殺風景な街並みだけれど、植え込みにあるひょろりとした木にメジロが2羽遊びに来た。しばらくこちらの様子を伺っているところを見ると、だれかがごはんをあげているのかもしれない。
裏通りでは、白黒の小鳥が道路のど真ん中でぼんやりしていた。たぶん、ハクセキレイ。(※1)警戒心が強いイメージのある小鳥だけれど、背後にわたしたちがいることにまったく気づいていないようだ。
驚かすつもりはなかったけれど、向かう方角に立っていたからふいに距離を縮めてしまった。
「わっ!後ろに人間いたの⁉︎」とばかりに、ビュンと去っていく。
神田方面に歩くと、一階だけ近代建築の跡が残された博報堂と書かれたビルがあった。
手前の歩道には銀杏並木。どうやら歩道を整備するらしく、近々伐採されるそうだ。心の奥がちくりと痛む。伐採に反対するビラがいくつも貼られているが、果たして。
複雑な気持ちを抱えたまま、さらに進むと重厚感のある建築を見つけた。その角だけ、どこか取り残されているような、それでいて意志の感じられる建物。
「もしや、あの建物は……」と正面玄関を見て確信した。
ここは、学士会館。
いつか行こうと思いつつ、何年もそのままにしていた場所。神保町へ行くときに行けばいいや、と考えていたけれど、神保町は既に決まったルートがいくつもある。喫茶店に本屋数件、それだけでおなかいっぱいになってしまうから。
学士会館をひと通り見学し、おやつ休憩を済ませたら、神保町の町中華〈三幸園〉の角を右に入り、〈永森書店〉へ。昭和初期のガイドブックやポストカードが所狭しと並ぶ。こんなところがあったなんて。あまりに貴重な資料が売られていて、迷いに迷って今日は断念。
いつもの三省堂へ向かい、今日は何も買わないぞという決意も虚しく、いつのまにか1冊買っていた。最近はセルフレジを導入しているが、気が楽で良い反面、ブックカバー付けがセルフサービスになるので微妙かも。不器用なわたしが折り曲げた紙のブックカバーは折り目がフワフワしていて頼りない。
店を出て、改めて店を見上げると、パールのネックレスのような、はたまた海ぶどうのように垂れるシャンデリアが見えた。
1980年築の三省堂書店神保町本店は、この春に建て替えのため一時閉店する。(※2)
「老朽化のため」と書かれた案内文に、その翌年生まれのわたしはドキッとする。衰えつつある自分との付き合い方を模索している最中だからだ。
それにしても、40年目で建替えって思ったより早くないですか。それに、今年の4月から解体が始まり、2025~6年ごろの竣工までの3年間どうしたらいいんですか。あなたの店の「ロングロングセラー」の棚に並んだ選書から、世界を広げてくれる本に出合えたんですよ。
3月下旬の営業終了まで、あと何回通えるだろうか。そしてこのビルも現代風のオフィスビルになってしまうのだろうか。
神保町の大通りから御茶ノ水駅へ向かう坂道を登りながら、なにも計画しないがゆえに発見の多い1日になったことを思い返しつつ散歩を終えた。
参考資料 ※1 おさんぽ鳥見 このサイト、散歩で見られる鳥を分かりやすく紹介されていて素晴らしいです!
※2 本社ビル建替えに関するご案内 / 三省堂書店
東京・丸の内から神保町のおすすめ散歩ルート
前半はさんぽエッセイ、後半はさんぽで撮った写真を並べてみます。この日は全部、iPhone12 miniで。
神田のおすすめ散歩ルート
神田のおすすめ散歩ルートまとめ ー 老舗そば屋から喫茶店へ ー