散歩するつもりなんてなかったはずなのに、気づけば帰宅予定時刻を2時間もオーバーしている。
働き方を変え、なんとなく変化にも慣れてきたものの、ある意味ライフワークとも言える「無駄な散歩」をする時間が取れていない。
そうするとどこかで叫びたくなる衝動に駆られ、グッと堪えることでまたストレスが溜まる。
そんな日が続くと、どこかへ用事を済ませた後、無意識に数時間ほど彷徨ってしまう。気づいた頃にはもうヘトヘトで、早く帰るつもりだったのに、と心の中で嘆いている。
築地へ行く用事があって、そのついでに気になっていた手巻き寿司を買いに場外市場へ向かう。
この辺りは木造の長屋や看板建築の建物が多く残っていた。
青銅色に変化した看板建築もあちこちに見受けられる。
気づけば、勝鬨橋のたもとにたどり着き、手前に広がる工事現場に目を丸くした。
築地市場が移転したのは数年前だけれど、解体が始まってからの様子はまだ直接見てはいなかった。
だだっぴろい更地をまだ受け入れられないというか、「そもそもなんで移転する必要があったんだっけ?」とモヤモヤしてきた。あの場所は少なからず思い出のある場所だったから。関係者でもなんでもないけれど。
地図を頼りに歩いていたはずが、気づけば大回りしていた。
場外市場は平日の昼間とはいえ観光客でごった返していて、人の多さと店の選択肢の多さに翻弄され、寄り道したことを後悔しそうになった。
が、そんな時こそ発見があるものだ。
外壁のモザイクタイルがあんなところに!
隣接する店舗よりも背の高い部分にモザイクタイルアートが施されている。これは珍しい。ペンキか何かで描かれているのかと思いきや、でこぼこした陰影が生まれている。
建物の外壁にモザイクタイルアートは、まあまあ珍しい気がする。しかも、上を見上げた人にしかわからないような部分に……!
そんな発見だけで「来てよかったな」と機嫌がよくなる自分。
肝心の手巻き寿司の店はすでに今日の営業を終え、スタッフのおばさんたちは帰り支度をしていた。
と、いうわけで、偶然通りかかった魚卵専門店でたらこパスタを。
もちもちの太麺パスタに絡みつくたらこ。
インスタントのたらこパスタソースの約3人前分くらい(推定)のたらこがミチミチに絡みついている。カウンターでささっと食べながら、軽くおしゃべりしつつてきぱきと働くお母さんたちの頼もしさを観察するのも一興。
きれいに完食し、築地の交差点でターレットのカプセルトイを発見してチャレンジする。機械が故障して出てこず、店の人に伝えて出してもらう。こっそりやりたかったので、なんとなく気恥ずかしい。
築地本願寺を通ると、撮らずにはいられなくなるのはシンメトリーが好きだからなのだろうか。
路地へ入り、ちょうど空いていたターレットコーヒーへ。
ようやくここのコーヒーを飲めた!ほろ苦めな味わいとラテアート。
ターレットが間近に展示されているのでじっくり見られるのも嬉しい。
たまたま空いたタイミングにこれてよかった。
その近くでは、気になる案内板が。
ここにはかつて劇場があったそうだ。
東京大空襲でその姿は消えてしまったと書かれていて、そういえばもうすぐ3月10日だと気づく。(これを書いたのは3月上旬だったのです)
同じ敷地には淡いベージュ色の打ち込みタイルが使われた渋いビルがあり、道路を挟んで反対側にはもうひとつ雰囲気のいい昭和のビルがある。
この通りを右に進めば、有名な看板建築が残る「宮川食鳥鶏卵」。
ここの骨付きもも肉を食べてしまったが最後、わざわざ築地まで鶏肉を買いにくるはめになる。
水炊きでもいいし、鶏がゆも最高だ。ぷりぷりの砂肝をボイルして塩でいただくのも、鶏皮を炒めてポン酢をかけてもうまい。骨付きもも肉をオーダーし、店のお兄さんが手際よくぶつ切りにする一部始終を観察するのもわくわくする。
買い物を終えて、ふと我に帰る。
今日の予定ってこんな感じで悠長に過ごしてよかったんだっけ……? と。(よくない)
でも今夜、水炊きを食べたらきっと「今日の過ごし方は正解だった」と胸を張れるはずなのだ。
決めない散歩ー丸の内編ー