「おおらかさがあるのが奈良っぽい」
はじめての奈良への旅。店主さんとお話しすると、愛ゆえのちょっとした自虐のような、街への温かな思いがこもった言葉をよく耳にしました。
奈良へ訪れる観光客は、京都や大阪のついでに来る人が多いそう。店が集まる「ならまち」は人気のカフェやショップが集まるエリアだそうで、事前の下調べで手に取った資料は、だいたい「ならまち」にある店がメインでした。
今回訪れたのは、「ならまち」と対になる近鉄奈良駅の北側、いわゆる「きたまち」エリアです。その理由はというと……。
〈きたまち〉エリアが好きすぎて。クラファンでガイドブックを製作!
今回の記事の依頼主である、雑貨デザイナー&イラストレーターのKUMさんは、きたまちでデザインの仕事を手がけながら、〈ハニホ堂〉という雑貨店を営みます。
京都出身のKUMさん。とあるきっかけで雑貨店を開くことを決意し、人づてに巡り会えた奈良へ。あれよあれよというまに、きたまちの底知れぬ魅力にはまっていきます。
「きたまちの魅力をたくさんの人へ届けたい」という思いから、クラウドファンディングで〈奈良きたまちおさんぽガイドブック〉を製作。多くの方の支援を得て、目標金額をクリアし、現在もきたまちエリアでガイドブックを配布しています。
KUMさんが作ったガイドブックを片手に、「県外の人に実際に散歩してもらって魅力を届けよう!」ということで、声をかけていただき、2020年の秋に「きたまち」へお邪魔しました!
奈良きたまちのおすすめ観光スポット10選
KUMさんが作ったガイドブックを手に、あえてGoogleマップに頼らず、おすすめの店をまわりました。
どのお店の方も優しくしてくださり、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、2時間もお話を聞かせていただいた店も!(その節は本当にありがとうございました…!)
ひとつの店での滞在時間が思いのほか長かったこと、方向音痴でなかなか全部回れずじまいだったのが心苦しいのですが、特に印象に残った10ヶ所をジャンルごと紹介します。
奈良きたまちのおすすめ観光スポットーカフェ編ー
工場跡事務室
「工場跡、って何の工場だったの?」と思わず疑問が浮かぶネーミング。そんなささやかな質問から、スタッフとお客さんのコミュニケーションが始まる仕掛けが含まれたカフェがあります。
東大寺の池から坂を下ると右手に見えてくる建物は、きたまちエリアで人気のカフェ〈工場跡事務室〉です。
ランチタイムで注文した「自家製パストラミサンド」。
ドリンクセットの月ヶ瀬茶の紅茶に、デザートはいちじくのシロップ煮と、素材の味をシンプルに楽しめるセットメニュー。ああ、近所に欲しい…!
しっとりした食感のカンパーニュには、くるみ・レーズン・パイナップルがたっぷり!フィリングのパストラミとパイナップル入りカンパーニュのコンビネーションよ…!
食前酒ならぬ、食前ジュースにはりんごジュースをひとくち。
魅力的なメニューが揃うほか、場所としての魅力も尽きません。
2009年にスタートした〈工場跡事務室〉ですが、もともとは乳酸菌飲料の製造と開発を行う工場でした。
工場としての役目を終え、創業者の曾孫であるオーナーの喜多さんが、古い建物をそのまま活かすべくカフェとしての営業を始めました。
工場内の事務室と荷造り室をカフェへ、また研究室はイベントスペースやギャラリーとして第二の人生を歩んでいます。
広い敷地内には、他にもいくつかの建物が見受けられ、まだまだ店舗として使える範囲は広そうですが、あえて余白を残しているとのこと。
その理由のひとつは、一見無駄に見えるようなスペースがあるおおらかさが奈良らしいと感じるから、とのこと。
実は、冒頭で紹介したことばは、オーナーの喜多さんによるもの。一見自嘲のようですが、そこには地元やご家族が残した場所への愛が込められていました。古い建物をリノベーションして使うことは、ときに建物を壊し新築として立て直すよりも手間もお金もかかると聞きます。
当時の面影を残しつつ、カフェとして利用できるようになるまで1年間掃除し続けたと話す喜多さんの思いを想像すると、この店へ出会えてよかったと感じるはずです。
公式サイトでは〈工場跡〉の歴史や建築について詳しく見られるので、こちらもぜひ。
TEGAIMON CAFE
2017年オープンの〈TEGAIMON CAFE テガイモン カフェ〉は美味しいフレッシュジュースの店。もともと粉問屋だった建物で、天井が高く吹き抜けのようになっているのが特徴的です。
ロケーションも素晴らしく、目の前の転害門をジュース片手にじっくりと眺められます。
この日いただいたのは、シャインマスカットのジュース。
シャインマスカットは高級なものだと一房3,000円くらいかな?テガイモンカフェのフレッシュジュースは600円というリーズナブルな価格!
あまりにお手ごろなので、きっとミルクと合わせたりしているのだろうと思ったのですが…なんと!100%シャインマスカット!しかも、口の中で果肉が感じられる飲みごこち!ジューサーで全てをこわさず、ほんのり果肉感を残しているところが満足感高めでした。関西ではおなじみのミックスジュースにもこだわりがあるそうで、みんなが満足する味を追求する最中だとか。
店内のあちこちにも注目を。
〈TEGAIMON CAFE〉のもうひとつの名物メニューは、店の前で焼く壺焼き芋。
2時間かけてじっくり焼き上げるおいもの香りにつられて入店する人が続出。次は食べたいな…!
〈TEGAIMON CAFE〉
奈良きたまちのおすすめ観光スポットーディナー編ー
かやく
ランチには「かやくごはん」を、ディナーにはコース料理を提供する〈かやく〉。もともとは人材派遣会社で働いていたというご主人の八木さん。異業種からの転機は、知的障害を持つお兄さんと一緒に働ける場所を作りたかったからとのこと。
店先にあるランプや銅板に記された「かやく」の文字はお兄さんによるもの。やわらかな手書き文字が印象的です。
女性向けにアレンジされた夜のコースでは、八木さんのこだわりポイントを聞きつつ一品ずつゆっくり味わえます。
藁でいぶした低温調理の鴨肉をはじめ、天ぷらではスイートポテトのようなさつまいもやとろける食感のいちじくを。
メニューに合わせた日本酒のチョイスも丁寧に提案してくださり、おちょこ1杯だけいただきました。美味しかったなぁ…!
〆はもちろん「かやくごはん」。
旬のむかごを使った旨みとやさしい味わいが感じられるメニューで、温かな気持ちになれるごはんでした。
Pleased To Meet Me – プリトミ
もともと居酒屋だった店舗を、レトロ感ありつつお洒落にリノベーションした〈Pleased To Meet Me〉は、ご夫婦が営むレコード酒場。
奈良きたまちのカルチャーを担うプリトミには、入口を入ると懐かしのレコードがずらり。
昭和の名曲に耳を傾けながら、おつまみをのんびりといただけます。
音楽担当のご主人にマニアックな曲をチョイスしてもらい、話を聞くのも楽しい時間。カウンターには本好きな奥さまが選書した本がずらりと並びます。
フードではファラフェルがイチオシ!
ほくほくの食感を残したファラフェルは、おつまみにぴったり。ああ、あのファラフェル食べたい…!
スパイスカレーやおでんなどのメニューも、少しずつチョイスできるのも嬉しい限り。
奈良きたまちのおすすめ観光スポットーホテル編ー
朝食が美味しくて、一度泊まったらリピーターになってしまう人が後を絶たないとウワサの〈奈良倶楽部〉。
大皿のワンプレートには手間暇かけたごちそうがずらり。どれから頂こうか、迷ってしまうほど。
あわび茸のキッシュにおいもと蓮根のグラタン、ジューシーな粗挽きソーセージに温かなクロワッサン。
ボリュームたっぷりに見えて、おなかにもちょうどいいバランス。素材の味をいかすシンプルな味わいを引き出しているのは、オーナーさんの真心によるものでしょうか。
チェックインの際に少しだけお話しさせていただいたのですが、奈良の街への思いが強く、訪れて欲しい場所をたくさん教えていただきました。(時間が足りず、なかなか回れなかったので次回…!)
宿へ来たお客様へのおもてなしが込められたモーニング、きたまちグルメで必食です。
また、〈奈良倶楽部〉の地下には秘密基地のような図書室も。早めにチェックインして読書の時間を楽しむのも良いですね。
奈良きたまちのおすすめ観光スポットーお土産編ー
向出醤油醸造元
「ここの醤油、姉が好きで毎回買っていくんですよ」とは、ハニホ堂KUMさんの言葉。
そんなにハマっちゃう醤油ってどんなのだろう?と、〈向出醤油醸造元〉へ。
奥にある工場で醤油づくりをされているので、店へ入る前から醤油のいい香りがふんわり。
明治12年創業の老舗で、転害門のすぐ近く。わたしは奈良倶楽部を出て、TEGAIMON CAFEへ向かう途中でお邪魔しました。
小さな300mlサイズから試せるので、お土産に醤油というチョイスも良いかもしれませんね。配送もお願いできますよ!
奈良きたまちのおすすめ観光スポットーちょっと寄り道編ー
奈良女子大学
「ここはサンリオの世界…?」と思ってしまうほど、キュートな建物がきたまちに。
きたまちから奈良駅へ向かう際に立ち寄ってほしいのが、奈良女子大学。建築好きには有名な建物だそう。
今回は感染症対策で中には入れませんでしたが、いつかまた近くで眺めてみたいものです。
雪だるまみたいなお地蔵さま
奈良の街を歩いていると、「ここ暗渠(あんきょ:昔、川だったところ)だよね?」と思われる道が多くて、あちこち寄り道したくなるはず。
暗渠らしき場所を見つけると、進まずにはいられない…。
あ!川のそばにいるのは、お地蔵さま?
こちらは、「奈良きたまちガイドブック」に載っていたスポットでした。こんなところにあったんですね…!
奈良きたまちのおすすめ観光スポットー雑貨屋編ー
ラストは雑貨屋さん!どちらもあっという間に時間が過ぎる、良い店でした…!
マールイ・ミール
「ダメンズにハマったようなもんですよ」と、ロシア雑貨への深い愛をおもしろく語るのは、「マールイ・ミール」の店主さん。2021年で10周年を迎えるロシア雑貨の店です。
小さな路地を入り、靴を脱いで上がるとマトリョーシカがずらり!
マトリョーシカは、木をろくろで削り、ひとつずつ絵付けしているので、どれも少しずつ表情が異なります。もともと知育玩具の面もあったマトリョーシカですが、現在では観光客の定番土産として知られています。
ネットで見つけるより、自分の足で見つけたいと話す店主さん。年2回の買付けでは、ロシア人の方と直接やりとりし、自分が気に入ったものだけを店へ並べます。
「ロシアの人って優しいんですよ、言葉がわからなくてもちゃんと聞こうとしてくれるし、おまけしてくれたりもするし。」と、ロシア愛のこもった言葉。
ここで選んだのは鳥の絵本。ざらざらした紙質も、印刷技術が乏しかった時代のプリントも、今ではかえって温もりを感じられるのは気のせいでしょうか。
店内で流れていた、ソビエト時代のアニメも色使いやタッチが可愛らしくてとても気になりました…!
「うつわ」と「ざっか」器人器人
〈器人器人 きときと〉は、うねうねした細い道を入り、さらに細い路地を入った奥にある日本家屋の1階にあるうつわ屋さん。
色とりどりのステンドグラスで隔たれた向こう側は、どんな世界が待っているのかとドキドキしながらお邪魔すると、なんとも優しく温かな店主さんに出会えました。
奈良出身の店主さん。きたまちエリアで自分の店を持ちたくて、4年かけて今の場所に巡り会います。作家さんを探し始めたのは、店が決まるよりもっと前のことだったとのこと。
「店もないのに、よく信頼してくれたなって。うちの作家さんはいい人が多いんです。」と、話します。ときにはお客さんとの会話から、新たな作家とのつながりを発掘することも。
〈器人器人〉のお得意さんは4歳から70歳まで。なぜそこまで幅広くの方に愛されているかといえば、店主さんの人柄のほかにありません。
わずか2歳の子が家族に連れられて来たときのこと。思いのほか、うつわを真剣に選ぶ姿に驚いたそうです。その後、ご家族から話を聞くと、自分で選んだものを大切に使っているとのこと。
自らの意思で選ぶことで自分のものだという認識が生まれ、選んでもらったものよりも大切にするのかもしれません。それは、子どもでも大人でも一緒のことなのかも。
店の歴史を聞くと、言葉の節々で周りの方への感謝の言葉が溢れていて、それだけで心が温かくなりました。
肝心の作品たちのことを紹介していなかったですね!どれも驚くほどリーズナブルで、豆皿や箸置きなどは特にお手ごろ。
梅の花のようなフォルムの箸置き(お手頃すぎて4色買い)と、再生ガラスの小さなコップを買わせていただきました。
毎日、〈器人器人〉さんのことを思い出しながら使っています。
〈奈良きたまちお散歩ガイドブック〉を持って散歩しよう
実際に「きたまち」を歩いて感じたのは、個性的な店が点在していること。
観光客がターゲットの店が並ぶような場所は少なく、地元の方がふらっと遊びに来るような、ゆるやかな時間が流れる場所。
ここでは紹介しきれないほど、「奈良きたまちお散歩ガイドブック」には、街の魅力がぎっしりと詰まっています。ほんとうに、これで無料なの?と思うクオリティ。
ぜひとも、わたしがチョイスした店の他にもたくさん素敵な場所があるので、ぐるぐると巡っていただきたいです。遠方の方は様子を見て、落ち着いていけるようになったらぜひ!
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