学生街のはずれにある、古いライブハウスへ向かう途中に、大きな八重桜のある一軒家があった。
ソメイヨシノよりも濃く華やかな色と、名前の通りボリュームのある花びらが艶やかで、別れの季節の寂しさを一瞬だけ吹き飛ばしてくれた。
「あーあ、みんな卒業していくんだなぁ」と空を仰いだあの日は、今でも昨日のことのように思い出せる。
大学生のころ、バンドサークルに入っていた。
ふだんは構内にあるスタジオを貸し切っていたけれど、人気の季節は予約がなかなか取れない。街中にある小さなライブハウスを借りることもあった。
3月は、先輩たちを見送る恒例の卒業ライブ。いつもすごく楽しくて、その楽しさと比例して寂しさにも襲われた。
白い息が出る真冬でも、桜のつぼみが膨らみかけていることに気づくとうれしくなる。でもそれと同時に年明けくらいから、先輩たちの卒業がさみしくて日々こっそりメソメソしていた。
そんな時期に見る八重桜は、暖かな年だったせいか、ソメイヨシノが満開になるよりも少し早く、ちょうど卒業ライブが行われる3月下旬には見頃を迎えていた。
「まぁ、そんなさみしがらないで、上向いてみなよ。」
はちきれそうなくらい膨らんだ、ひらひらのスカートのような八重桜が言ってる気がした。
別れは寂しい。同じようにずっと一緒にいられないのはわかっていても、その瞬間はもう一生会えないような気がして切なくなる。
そんな「別れが無性に寂しくなる病」を学生の頃から、そして卒業してもしばらくひきずっていた。「卒業」のように、仲間が全員散らばっていくような行事がなくなっても、感傷的になっていた季節。
SNSで気軽につながれる時代じゃなかったからこそ、別れがより特別なものだった時代。
あれから、あっという間に時が流れた。卒業して少しずつ疎遠になった人もいるけれど、繋がっていたい人たちとはたまに集まって近況報告をしたりしている。
あの頃の自分に伝えてあげたい。
「そんなに悲しがらないで平気だよ。大好きな人たちとは、また会えてるから。」と。
※八重桜は通常、ソメイヨシノよりも開花が遅いものが多く、関東だと3月下旬〜5月上旬だそうです。あの時の写真がないので、昔撮った桜の写真を添えてみました。これは八重桜なのかな・・・?
桜の季節のエッセイ、第一弾はこちらから。
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