香りは、コントロールできない心のスイッチを切り替えてくれるもの。
眠れない夜に振りかけるのは、蔵前のSUNNY CLOUDY RAINYで買ったアロマスプレー。
外出中に心をリラックスさせたいときには、ukaのネイルオイル。
気持ちがざわざわと落ち着かない夜は、lifartのアロマキャンドル。
大人になるにつれ、そんな風に「香り」に守られることが増えていった。
慣れない場所でも、これさえあれば平気。
わたしにとって香りは、自分を守るためのものだった。
今日は「私が好きなあなたの匂い/長谷部千彩」をご紹介します。
「私が好きなあなたの匂い/長谷部千彩」
「私が好きなあなたの匂い」は、装丁がうつくしく、上品な香りがたちこめていそうな佇まいに惹かれて手に取った本。
この本は、実在する香水を題材にストーリーが展開されていく短編集。
正直にいうと、今までブランドものの香水に興味がなくて、どの商品も知らなかったし、香水自体が苦手だった。
それは多分、学生のときに大人びた高校生たちがカルバンクラインの香りを、加減も知らずに漂わせていたからだと思う。
大人になってからは、いつの間にか品の良い香りをまとっている人に憧れる自分がいて、その香りがふわっと香っただけで、うっとりした。
わたしにとって香りは、自分のためだけのもの。
相手に届くほどの香りを身に纏う人は、他人に対する自己表現のひとつの手段なんだと思っていた。
自己表現のための香りが、相手の心を揺るがすほど強い印象を与える。
香水が苦手だと言いつつ、惹かれるのはこれが理由なのかもしれない。
この本に出てくる香水たちは、主人公がお守りにしていたり、別れた恋人との思い出や、人生のあたらしい分かれ道に、印象深く登場してくる。
本を読み進めていくと、ふつうの毎日や、そうそう起きない人生の節目に寄り添う香水にどんどん興味を惹かれていく。
香水の持つ物語のパワーってすごい。
苦手だった香水にも手を伸ばしてみたいなと思わせるストーリーが絶妙。
次の休みには、苦手だったデパートの香水売り場に足を運んでみようかなと思っている。
自分のお守りにも、自己表現にもなるような「わたしだけの香り」を探しに。